『新建設業を考える』をテーマとして考え続けます。
2009年

第1章.序 論

1.1 研究の背景と目的
筆者は,1982年に土木工学科を卒業し,中堅ゼネコンにて新設の建設工事に8年間,従事し,その後1990年に土木構造物に関する補修・補強工事を行った.1995年には、阪神淡路大震災を経験し,被災した構造物の補修補強工事を行った.またその年には,「コンクリート神話の崩壊」が世間では騒がれ,1999年には,JR西日本の山陽新幹線のトンネル内でコンクリート片が落下する事故も発生した.
 補修・補強工事においては,化学業界や繊維業界から新素材が建設業界に紹介され,阪神淡路大震災以降から建設業界で一挙に使われはじめた.それまでの主な材料として木材,コンクリート,鉄筋,PC鋼材,鋼板などであった.それらの材料に加え,エポキシ樹脂や補強繊維(炭素繊維、アラミド繊維など),無収縮モルタルなどの特殊な材料が補修補強工事では,主要な材料として一般に使われるようになった.新素材の導入が進んだ時代である.
 一方,経済の変化も1973年の第一次オイルショックや1980年の第二次オイルショック,1993年には,バブルが崩壊するなど著しい経済の変化があった.建設投資額,1960年より1973年までの年間の建設投資増加は,平均20%であった.しかし,第一次オイルショック以後,1973年から1976年までは,10%を切る建設投資増加率となった.そして,第二次オイルショックの1980年から1986年までの年間の建設投資増加率の平均値は,わずか1.7%までとなった.1986年から1991年までバブル景気がつづいた.1992年の建設投資金額は,1992年の83.4兆円をピークとし,それを境に2005年までで約40%の縮小で51兆円まで大幅に減少した.1991年から2005年の建設投資率の年間の平均は,-3.0%となって減少続けている.
 また,行政においては,政府が1993年7月の経済白書で「政策の誤りでバブルを招いた」と発表,その後の金融危機を招く結果となった.
 他方,地方自治体においては,1993年,衆議院および参議院で地方分権推進の決議が
行われ,地方分権の流れが進んだ.2003年,6月三位一体の改革についての意見が閣議決定された.
 このように,筆者の所属する建設業界は,大学をでて社会に所属した何年間でわが国の社会システムが大きく変化しようとしている渦中にいるわけである.建設産業は,ますます,どうなるのか.また,『将来は,どうなるのか』が見えてこないのである.建設産業は,行政と密接な関係にある.建設産業の本質をつかむには,密接な関係にある行政に関しての研究を行なわないと建設産業から考察したのでは,将来は,見えてこないという考えに達した.特に,2003年に,アセットマネジメントの導入が高知工科大学 岡村甫学長によって唱えられたのだが.一般的にアセットマネジメントが理解できない.このアセットマネジメントとは,本来どうあるべきかを考えた.その本質をとらえるために,住民の立場からアセットマネジメントを考えてみた.
 そこで本研究の目的としては,地方自治体における行政システムのなかでアセットマネジメントがなぜ必要かを検証し,また,どのようにアセットマネジメントが使われるべきであるかを研究する.そのなかでようやく建設技術者の役割や将来が見えてくると予測した.

1.2 研究の経緯
 本研究に取り組んだ経緯としては,2003年から国土交通省,青森県,静岡県から橋梁やトンネルのアセットマネジメントの検討が行われた.構造物の点検を行い,劣化予測して,効率的な費用で構造物の維持更新をすることを目的にしている.潤沢な予算の元で行うアセットマネジメントと県や市町村レベルでは,この財政難に予算が出せない状態にあるアセットマネジメントは,元来違ってくるのでは,と考える.
特に,地方自治体の市町村では,1999年からの市町村合併の推進や2006年北海道の夕張市の財政難が新聞で大きく取り上げられているなか市町村レベルでのアセットマネジメントが本当にできるのかと考えた.ましてや,建設技術者の配置されていない行政もあるという.そのような状況の地方自治体においてアセットマネジメントができるのかと疑問をいだいた.
そもそも,住民の立場から見ると行政におけるアセットマネジメントは,何であるのか.その実態がわからないのが実情である.財政難,地方分権の環境の中,組織,運営を知った上での回答となるのではと考えた.インフラ整備のためのアセットマネジメントが本当の意味での住民にとって必要なアセットマネジメントなのか.行政全体の事業に関してアセットマネジメントのシステムが必要となってくるのではと考える.
 青森県の橋梁アセットマネジメントや,佐川町の土地造成事業などの事例からのヒントを得たいと考える. 下記の表に著者と社会環境を,社会に出てから今までを年代別にまとめてみた.

表1-1 社会の動向

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1.3 本論文の構成
 本論文は,7章からの構成で成り立っており,論文の全体構成は図1-1の研究フローに示す通りである.以下,各章の内容について述べる.
第1章では,序論であり背景と目的を述べる.
第2章では,地方自治体がどの様な環境におかれているかを述べる.
第3章では,地方自治体の組織について述べる.
第4章では,現在,行政評価として事業評価がどのように行われているかを述べる.
第5章では,アセットマネジメントについての一般的な考えと行政においての違いを述べ,問題および課題を探る.アセットマネジメントの具体例として,青森県の橋梁アセットマネジメントを紹介し問題点を探る.また,佐川町における土地を活用したアセットマネジメントを紹介し、分析を行う.
第 6章では,事業評価とアセットマネジメントの違いや関係を述べる。
第7章は,本論文の結論と,今後の課題と展望を述べる.

論理フロー
図1-1 本論文の論理フロー

参考文献〔第1章〕
(1-1) 川又三智彦著 2017年日本システムの終焉  公文社
(1-2) 川﨑政司著 地方自治法基本解説(第2版) 法学書院
(1-3) 総務省 ホームページ 建設投資の推移 付表1